秋の花
自然の移り替わりの中から美しさを感じとる喜び。これは四季のある日本の風土があるからでしょう。暑い夏が終わり、初秋に美しさを放つ秋の草花。秋の七草も、その中のひとつです。
山上憶良は万葉集の中で
〝秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種(ななくさ)の花〟
と詠んでいます。
憶良は奈良時代の官人として、又「万葉集」に八十首の歌を残した代表的な歌人です。
晩年は筑前守(ちくぜんのかみ)として九州の筑前へ赴任します。
当時大宰府の長官であった大伴旅人(家持の父)と意気投合し「筑紫花壇」と呼ばれる文学サロンを作り活躍しました。
―令和の元号との関わり―
「初春、令月に気淑(よ)く 風和(やわら)ぐ」
大伴家持の邸宅で催された梅花の宴で詠まれた歌の序文ですが、この歌は令和の元号の決定に引用されたそうです。
「令」は素晴らしい、めでたい「和」は穏やか、調和、の意。
菊 縮緬 長着
菊は中国から渡来した花で、邪気を払い繁栄をもたらす力があると信じられてきました。
九月九日「重陽の節句」では、菊を飾り香りを移した「菊酒」を飲んで、無病息災や長寿を願います。
姿、色、香りがすぐれているため、きものの模様としても、季節を問わず最も使われています。
秋草 紬の後染 長着
可憐な秋草が咲き誇る紬地に、流れるような水流と柔らかな芝模様が描かれ、その中で主役の秋草がいっそう引き立ち、美しい秋の情景を際立たせています。
季節の移ろいと和やかな風情を感じます。
瓢箪 二越縮緬 長着
瓢箪は、中央がくびれた形の面白さから文様として好まれ、小形で多くの実をつける千成瓢箪は、豊臣秀吉の馬印としても有名です。
流水にもみじを浮かべた竜田川文様の色紙と共に、自然が織りなす秋の豊かな色彩に染められた文様です。
菊に垣 紋縮緬 羽織
秋の七草は日本で生まれました。
中国伝来の春の七草のように食べるのではなく、姿・色・香を愛でるものであり、詩的な情趣にあふれています。
籬(まがき)風の垣根は菊とともに多く、描かれ籬菊(まぜぎく)と呼ばれています。
秋草と虫籠 絽縮緬 長着
萩、桔梗、撫子などの秋草の中に、飾り紐を纏った雅な虫籠が置かれているように描かれています。
透け感とシボのある絽縮緬のきものは、周囲の人々にも心地よい涼風を届けてくれそうです。
薬玉 絹紬 長着
大輪の菊花を薬玉に見立てた文様に、健康と長寿の願いをこめて身に纏う。
菊は薬としての効能も非常に重視されており、また邪気を払う力があると考えられていました。
秋風景(蜻蛉) 薄物紋錦紗 長着
古名を「あきつ」という蜻蛉は、俊敏で空中を飛びながら素早く虫を捉え勝ち虫(かちむし)とも言われ武士に好まれ、武具に多く描かれました。
夏のきものに秋草の中をゆったりと飛ぶ姿は涼やかで、平和が感じられます。
色紙に菊 二越縮緬 長襦袢
一枚の色紙には琳派を模したと思われる、赤い腹がけのみの姿で遊ぶ愛らしい童子。もう一枚には一文字で神仏を象徴する梵字。
これらと菊との取り合わせは子孫繁栄、延命長寿、厄除け、魔除けなどを意味し、縁起のよい吉祥文様とされています。
薬玉 錦紗縮緬 長着
薬玉は五月五日の端午の節句に延命長寿や魔除けのために飾られた中国の風習から来ています。
種々の薬や香料を綿の袋に入れ、菖蒲や蓬(よもぎ)などの花を結んで、五色の糸を長く垂らした薬玉を文様化しています。
若い女性の晴れ着や女児の祝着の模様にもよく用いられています。
花檜扇 二越縮緬 長着
檜扇は、檜の薄板の上部を絹糸で繋げた扇で、平安時代の貴族が装身具として用いたもの。
菊や紅葉を檜の薄板にみたて、深まる秋の侘しさを感じさせる一方で、飾り紐が雅さと末広の吉祥文様を強調しています。
秋草 縮緬 長着
秋草は足早に季節を感じさせてくれる新鮮さから夏のきものや帯、浴衣などに多く用いられています。桔梗・女郎花・萩の花が、芒(すすき)と組み合わされ、斜め取りの染疋田がアクセントになっています。
薬玉と虫籠 紋錦紗 長着
有職造花(ゆうそくぞうか 絹の造花)の薬玉は邪気を祓(はら)うと言われており、香を入れた玉と五色の絹紐を淡路結び(鮑結び)して長く垂らします。
秋を感じさせる花々と御簾(みす)に虫籠が宮中の雅な遊びを思わせます。

撫子と藤 絹(平織) 名古屋帯
※東雲色の地に、風に揺れながら撫子の花が咲いているように見えるのは巧みな刺繍の技でしょう。
前帯にも藤の花があり、春にも楽しむことのできる、はんなりとした、上品さと風情のある帯です。
※日本の伝統色 しののめいろ、別名 曙色は明治期に欧米のオーロラ色の訳語とされる。

色紙取り モスリン 長襦袢
鮮やかな青紫色の地色と、その上にちりばめられた色紙とのコントラストが美しい※モスリン友禅です。色紙には艶やかな羽色の雉、色づいたもみじや蔦など錦秋の風景が描かれています。
※モスリン友禅―モスリンの生地に写し(化学染料と糊を混ぜたもの)で型置き捺染した型友禅の先駆け。明治十四年頃発明、堀川新三郎。

菊の丸文 縮緬 羽織
菊の花や葉を円形に形どった文様を菊の丸文といいます。
二本の曲線が規則的に並ぶ立涌文が途切れたり、崩して余白や切れ目を作った破れ立涌文です。
破れ立涌によって菊の丸の円形がより際立ち生き生きと見えます。
秋草に虫籠 モスリン 長着
虫の音を楽しむ日本人の文化は、風土に育つ竹との編み合わせにより虫籠を芸術品にまで高められて来ました。
瑠璃紺の地色、秋草の中に置かれた虫籠、一見、絽のように見える布はモスリンに染色された絽模様です。

鳥兜 モスリン 長襦袢
雅な虫かごと、華やかな※鳥兜。兜でも武具ではなく雅楽の常装束です。
秋草に囲まれて華やかな長襦袢です。
※鳥兜(とりかぶと)…雅楽の楽人や舞人が頭にかぶる鳳凰の頭をかたどった豪華な冠の事。
破れ色紙 縮緬 長襦袢
色紙は美しい料紙に絵や歌が書かれ完結した作品です。
これをきものの文様の中に配すると言う画中画のような面白い意匠です。
地の霞、壺垂れの文様とは異質の文様を置いても違和感なく見られるのが粋です。









